フェス飯クラブ / Fesmeshi Club

地元飯には必ず物語がある? 「結いのおと」に出店する新旧ふたつのお店のメニュー誕生秘話

地元飯には必ず物語がある? 「結いのおと」に出店する新旧ふたつのお店のメニュー誕生秘話

古い蔵などが残っている市街地に点在するライブ会場を、町歩きしながら巡るのも大きな魅力の「結いのおと」。フード&物販が並ぶYUINOTE MARKETもライブ会場の近くにセッティングされる。一堂に集まるのではなく4カ所に分散される入場無料のマーケット。神社の参道であったり、お寺の境内だったり。歩行者天国になっている場所もあり、そこでゆっくりフェス飯を食べることもできる。

 今年のフードの出店数は50近くになる。集客数に対して、どのくらいの出店数が適正なのかはよくわからないけれど、「結いのおと」でのフード出店の割合は、かなり多いのは確かだ。「結いのおと」オーガナイザーの野口純一さんは「自分もフェスに行って、並んでいる時間ってもったいないと感じちゃっているんです。だから『結いのおと』では待たせたくないと思って」と話してくれた。

 結城をはじめとした地元近くからの出店と、東京などの遠方からの出店のバランスも、野口さんのこだわりのポイントだという。それは地元の人には結城では味わえない食を楽しんでもらい、遠方から参加する人には地元の味を提供したいという思いに他ならない。

 結城や近くの町から出店しているのはどんなお店なんだろう。どんな人がやっているんだろう。そんな素朴な疑問を晴らすために、2軒のお店に行ってみた。一軒は「結いのおと」には開催当初から連続している「ドラヤキワダヤ」。もう一軒が今年初参加となる「麵や杉寅」。どちらも物語があるお店だった。



ドラヤキワダヤ
伝統へのリスペクトと遊び心を持った新しい味への挑戦と。


 結城の隣町の栃木県小山市にある「ドラヤキワダヤ」。結城から電車で行くのであれば、小山で宇都宮線で上野方面に乗り換えて次の駅。ドラヤキ屋というよりも古着屋のようなたたずまいのお店だ。店主は染谷さん。

「ドラヤキワダヤ」がオープンしたのは12年前。「結いのおと」がスタートする前に「結い市」というマーケットイベントが開催されていて、そのときから出店しているという。

 染谷さんは東京生まれ。親の仕事の関係で中学3年から高校卒業まで栃木で過ごした。両親の実家も栃木にあって、母親の実家が和菓子屋を営んでいたという。高校を卒業してまた東京へ。そして33歳でまた栃木に戻ってきた。そしてその和菓子屋で修行し、数年後に自分のお店の「ドラヤキワダヤ」をオープンさせた。こだわりは銅板一文字による手焼きと栃木産の素材を使うこと。かつては「結いのおと」の出店の際も銅板を持って行き、現地で生地を焼いていたという。栃木のイワイノダイチという中力粉を使った生地は思いのほかしっかりしている。しっとりタイプの柔らかい食感のドラヤキに慣れてしまっていたのか、その味わいは新鮮であり懐かしい。そしてその生地のしっかりさは、染谷さんの目指しているドラヤキだ。
「あえてしっとりはさせないんです。水分が多いドラヤキは嫌なんですね。あんこの水分が取られても、ビチャビチャしないドラヤキ。作ってから数日経っても、変わらない美味しさを有したドラヤキを目指して作っているんです」と染谷さん。

 お店には十数種類のドラヤキが並んでいる。スタンダードな味もあれば、季節の味もある。味に対するチャレンジ精神も旺盛で、今までに350もの味のドラヤキを作ってきたという。

「お店の定番になったものもあれば、瞬殺で終わってしまったものもあります(笑)。4月中旬だと桜のシーズンが終わっているかもしれないから、他にレモンとか季節の味を考えていますよ」

 伝統的なドラヤキへのリスペクトと新しいドラヤキへの遊び心のある挑戦。そのふたつのベクトルを「ドラヤキワダヤ」感じさせてくれる。

 



麵や杉寅
結城ラーメンと胸を張って呼べるまで。


 去年の「結いのおと」の会場となった結城市民文化センターアクロスからすぐ近くにあるのが「麵や杉寅」。オープンは2023年8月22日。まだ2年も経っていないラーメン屋だ。

 店主の杉村さんのプロフィールが興味をひく。20代は大人気ティーン雑誌の編集者。30代はデザイナー。「結いのおと」の初期スタッフでもあり、他にも結城市のイベントポスターや結城の酒蔵「武勇」のラベルなどを手がけていたという。そして40代になって一念発起してラーメンの道へ。

「AIでなんでも作られる時代になってきたので、誰もがなんでもできちゃう(笑)。キャンドルを作って、野外イベントに出店していたときもあったんです。そのときに一番並んでいたのが飲食のブースだったんですよね。衣食住のなかでも、やっぱり食がもっとも強いんだなって思って。それで挑戦してみようと」と杉村さん。
  杉村さんは佐野ラーメンを代表する人気店で修行をはじめた。半年ほど修行した後、残念ながらケガをしてしまい、修行先から離脱。修行は完結できなかったけれど、縁がつながって今の物件と出会い「麵や杉寅」をオープンさせた。

「麵や杉寅」のラーメンは縮れ麺。味も見栄えも修行していた佐野ラーメンにかなり近い。聞くと、お店が休みの月曜に修行していた佐野の名店に行って、場所を借りて1週間分の麺を自分で打っているという。

「いつか結城ラーメンとして胸を張って自分のラーメンを出したいんですね。だから佐野ラーメンは名乗っていないんです。結いのおとでもラーメンを出したいんですけどね。開店2年も経っていないので、出店で自分の味を自信を持って出すのは難しいのかなって思っています」

「結いのおと」のフェス飯メニューは、ラーメンで使われるチャーシューを使った丼。国産豚の三枚肉を4時間から5時間じっくり煮込んで、それを漬けだれのなかに2日間寝かせて味を染み込ませる。ほろほろととろけるような口当たりが絶品だ。

「結いのおと」への出店は日曜のみ。土曜は通常通りに昼も夜もオープンの予定というから、会場の北部市街地からちょっと距離はあるけれど、結城ラーメンを食すのも悪くない行程なのだろう。

 




<text・photo=菊地 崇/festival photo = 結いプロジェクト>



街なか音楽祭『結いのおと2025』
開催日時:2025年4月19日(土)DAY11:00~18:00 NIGHT18:00~20:00、20日(日)DAY11:00~18:00
会場:茨城県結城市北部市街地
https://www.yuinote.jp