フェス飯クラブ / Fesmeshi Club

地元だから、やっぱり盛り上げていきたい。つくり手たちのそんな想いが詰まった朝霧JAMの現場から

地元だから、やっぱり盛り上げていきたい。つくり手たちのそんな想いが詰まった朝霧JAMの現場から


いい音、いい山、いい食べ物にいい焚き火。このすべてがそろってこその朝霧JAM!!


 朝霧JAMといえば、今年で初年度から25年目を迎えた老舗の野外イベントだ。キャンプインができるフェスとしても人気で、テントを持参して朝霧高原に集まってくる参加者も多い。

 目の前には霊峰富士が大きく裾野を広げ、振り向けば毛無山塊の山並みがぐぐっと迫ってくる。イベントが行われる朝霧アリーナは、そんなロケーションに囲まれている。つまり、自然のど真ん中で開催されるイベントであり、当然ながら雨に降られることもあれば、霧に包まれることもある。それでも、一瞬にして霧が晴れ、富士山が顔を覗かせてくれることもある。満天の星空に恵まれた翌朝などには、シーズン最初の白い帽子を被っている富士を見る年もあった。

 そんな目まぐるしく変わっていく自然とともに25年の歳月を過ごしたイベントには、ともに同じ時間を過ごしてきた人たちが多くいる。朝霧JAMを愛する人たち。毎年訪れてくる参加者たちのなかには、小さな子を連れてくるファミリーが多くなったように思う。この子たちが生まれる前からの朝霧JAM好きのコアなメンバー。この場所で出会ったふたりが3人となり、4人となり……そんな話を焚き火を囲みながら聞いたこともある。

 参加者たちにも愛されるこのイベントには、愛されるだけの理由もあるのだと思う。それは、つくり手たちがあふれる愛を振り撒いているから、といってしまっていいのかどうか。今回はフェス飯クラブの記事だけに“食“の場をつくる人たちのイベントへの愛から、朝霧JAMに迫ってみたい。

地元だから、やっぱり盛り上げていきたい

 話を聞いたのは、朝霧JAMで飲食出店を取りまとめる「出店管理」を手掛ける小嶋伸也さん。この仕事を続けて10年になる。もともとイベント関連の仕事をしていた小嶋さんは、結婚を期に朝霧に移住。この地で子育てをしながら、いまでは酪農関係の会社で本業を持っている。

富士宮といえば、焼きそば。街にはたくさんの焼きそば屋さんがある。その味はお店ごとにちがっているから、食べ比べる楽しみもある。今年の朝霧JAMでも、数店舗の焼きそば食べ比べができた

「やっぱり、地元だから。そういった想いは強い」

 朝霧JAMのイベントとしての強みは、地元に根付いていることにある。イベントの始まった当初から、朝霧JAMS'という地元ボランティアが組織され、その運営に大きく関わってきた。受付業務、道案内、ゴミステーションでの分別。そして、“食”の部分でもイベントの運営母体であるスマッシュとの連携を図っている。

 朝霧JAMのHPをのぞいて見ると、FOODや食に関する特別なページは、地元・実行委員会JAMS’ホームページの「富士山人食堂2025」というページにあり、すべての飲食ブースが紹介されていた。


「富士山人食堂のページは、じつは朝霧JAMS'のメンバーがつくっているんですよ。朝霧JAMS'のメンバーは本当に朝霧愛が強いので、開催当初から地元の食に関しては彼らがリードしながら主催者と共に取り組んでいるといった具合ですかね」

 イベントに出店する店舗が決まれば、その情報を小嶋さんが取りまとめて、富士山人食堂に提供、そして食を紹介するページがつくられていくといった流れになっている。朝霧JAMとしては、地元の人たちのこの情熱を大いに信頼している。とはいえ、丸投げというわけもなく、もちろんその出店内容にはこだわりを持っている。

「たとえば、朝霧といえば富士宮といえば、焼きそばじゃないですか。そのほかにも牛乳だったり、豚肉料理だったりするのですが、地元の熱だけに任せていると、今度は焼きそば屋さんばかりになってしまう可能性もあります。その偏りをなくすための微調整は、やっぱり大事なんです」

 じつは朝霧JAMでは、コロナ前までは飲食出店に関しての公募をしていなかった。地元のつながりから、次はあの店が出たいと言っているとか、あそこがいっしょに出てくれるなら出る、なんて話もあった。つまり、お店同士の横の展開がうまく機能して、地元出店の数はしぜんと増えていった。

「そんな中でも、メニューが重ならないように工夫はしていたのですが、20数年を経て、毎年いつも同じというわけにもいかなくなって……。公募を始めたのはコロナ明け。いったん朝霧JAMが休んだあとですね」。

 いつものお店、いつもの味に加えて、全国展開をしているような人気店の味も入れ込んでいく。ひとりでも多くの人のニーズに応えられるようにと、つくり手たちは頭を悩ませ、年ごとに変化を持たせ、さまざまな工夫をしている。

「でも、朝霧色を残しておくことは、とても大切だと思っているんです。朝霧JAMは他の野外フェスと比べると、とても特殊な部分がありますよね。野外フェスでいえばキングともいえるスマッシュが運営も制作もやっている。それでいて、地元のボランティア団体が、運営の手伝いをしている。そういったメジャーとマイナーの混ざり合いとでもいいますか、いい具合の雰囲気がつくられていて、またゆるい組織化がされていて。まさしく、これこそが“JAM”なんですよね。この特色が、食の部分にも出ているんじゃないかと。そんなふうに考えることもありますよね」

出店管理の仕事は、お店選びをするだけじゃない。イベント期間中は、店舗の状況をしっかりと見て回る。もちろん、味のチェックも欠かせない。右のあやしい人影が小嶋伸也さん

 では、朝霧らしい食とはどんなものなのだろう? そのあたりを小嶋さんに尋ねてみると。

「あえて言うなら、朝霧高原は酪農の地なので、牛乳がいちばんです。実際に産地直納品なのでかなりおいしいんです。実行委員会主催で酪農協同組合と市役所と共に『牛乳を飲もう』という試飲キャンペーンも毎年やっています。」

朝霧高原にはモーモー牛さんがたくさん。おいしい牛乳も飲めるし、ソフトクリームも食べられる

「あとは、もちろん焼きそば。そして豚肉。ここまではいつも通りですが、最近の注目は虹鱒にジビエですね。今年は虹鱒のお店は出ていませんが、近くの猪之頭にはマスの養魚場もあります。これは、富士山のきれいな水があってこその事業です」

富士山の伏流水は、富士宮の至ることに清き水を運んでいく。写真は、朝霧JAMの会場からもほど近い陣場の滝

「そしてジビエ。とくにジビエについては、このエリアの社会問題とも深いつながりがあります。もうシカが増え過ぎてしまって、シカ害なんて言葉も聞いたことがあると思いますが。シカのほかにもアナグマやイノシシなんてのもいるんですけど、エリア全体でこの問題には取り組んでいるんです。害獣駆除が事業として成り立つなら、そこには大きな意味があります」

シカの骨付き肉とイノシシの巻狩鍋。このシカの骨付き肉をイベント用に準備するのがなかなか大変な仕事。1頭からとれる数も限られているので、現場では数量限定。売り切れごめん!!

「だから、おいしく食べられるジビエがあれば、といった発想なんです。イベントで、フェス飯で本格的なジビエが食べられることもあまりないと思いますが、今回の朝霧JAMでは、ふたつの店舗がジビエのメニューを出していますね」

「その他にもおいしいフェス飯はたくさんあります。静岡は豊かなところで、山もあれば海もある。山がジビエだとすれば、海は……駿河湾の桜エビとシラスのどんぶりなんてメニューもあれば、丸ごとアジの干物せんべいんてのもあるんですよ! これは、一度焼いた干物のアジを、食べる直前に揚げちゃうんです。そうすると、もうパリパリになって。ビールのつまみとしても絶品です」

桜エビとシラスのどんぶり。このグレードがフェス飯で食べられるなんて。そして、右がうわさのアジの干物せんべい。提供する直前に、その場で揚げてくれる

「まぁ、とにかく迷ってしまうくらいにメニューが豊富にあるのも、朝霧らしさと言えるかもしれません。いまや野外フェスがあちらこちらに乱立してしまっているので、どこも同じ色になってしまいかねない。だからこそ、朝霧JAMは地元の色を大切にしているんです。やっぱり、地元だから。それがいちばんですね」

 朝霧を愛する人たちが、手塩をかけてつくり上げている朝霧JAMの現場。来年の味はさてどうなっていくのだろうと、いまから待ち遠しい思いがするのはなぜかといえば……。じっくりと話を聞いたからだけではない。食べ損ねがたくさんあって、悔しい思いをしているからだ。

 あぁ、アジの干物せんべい、食べたかった!!




朝霧JAM 2025 - It's a beautiful day
開催日:2025年10月18日(土)・19日(日)
会場:富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら(静岡県富士宮市朝霧高原 周辺)
https://asagirijam.jp/